ラビは息を整えながら状況を探る。 ベットにはユウ。 何かされた様子はない。 ただ、何か信じられないものを見るように、驚いた顔でこちらを凝視している。 その手前には”ラビ”。 相変わらず人をくったような態度で、面白そうに自分を見ている。 「・・・・・やっぱ、ここだった、か・・・・・・っ」 「随分必死さね」 「ったり前だろ・・・・・っ。 てめぇをほっといたら、何しでかすか・・・!」 「俺はお前の一部だぜ? ラビ」 何もできる訳がないだろ? とくに、ユウには。 言いながらそっと神田へと手を伸ばす”ラビ”。 急いで走ってきたせいで、ラビはまだ思うように動けない。 実体のない指が、そっと神田の髪をすく。 そのまま唇を寄せようとする”ラビ”に、堪らずラビは叫んでいた。 「ユウ! ぼさっとしてないでソイツをたたっ斬るさ!!!」 「・・・・おま、何で」 「早く!! いつもならとっくに抜刀してんだろ!_?」 どこかぼうっとした感じの神田に、ラビは苛立つ。 「・・・・・・・・俺の格好してりゃ、何でもいいのかよ」 「・・・・ラビ」 「格好悪ぃな、ブックマン」 せせら笑うように”ラビ”が割り入ってくる。 「まともな状況判断もできないんさ? もっと冷静に物を見ろよ。 そんなに頭に血ィ上らせてたら、見えるもんも見えないさ」 「――るせぇ」 「ユウは単なる被害者だよ。 俺をお前の幽霊だと思って・・・・随分落ち込んでたのに、な? 何を勘違いしてるんだか。 そもそも、少し考えればわかりそうなもんさ。 こんな半端な体じゃ何もしようがない」 「・・・・・・・・・る、せぇよっ・・」 ヒラヒラと手を振ってみせる”ラビ”の態度が、一層ラビを煽る。 自分のモノと同じとは思えない、底の見えない翡翠色の瞳が、すっと細められる。 「こんなのは俺じゃない。 本当に俺のオリジナルさ? お前」 「ふざけ――ッ」 「――お前なんかより、俺の方がうまくやれる。 ブックマンも、エクソシストもな。 そう思うだろ?」 「黙れ!!」 「・・・・・・・お前こそ、消えるべきさ」 「――――――ッ」 振り下ろされた槌が地面にめり込む。 面白くなさそうにラビを見つめる、”ラビ”を通り抜けて。 「くそ・・・・・・・ッ」 「『どうすれば消えるんさ?』 さァね。 そこまでは俺も知らないさ」 「・・・・!!」 「図星だろ」 嘲るように笑って、”ラビ”は身を翻す。 カツカツと、ガラスが割れたままの窓に歩み寄り、そのままその向こうへと消える。 神田は、彼が小さく呟くのを聞いた気がした。 「・・・・・・俺だって、出てきたくて出てきたわけじゃないさ」 二人だけになった部屋の中に、居心地の悪い沈黙が落ちる。 「・・・・・あれは、何だ」 最初に口火を切ったのは神田だった。 眉間に刻まれた皺を揉み解しながら、疲れたように。 「分身、さ。 コムイが、分身を作り出す機械を作って」 「んなもん作って何が楽しいんだよ」 「コムイなりの考えがあるらしいさ」 「お前もお前だ」 「俺は実験台にされただけさ!! コムイが無理やり・・・」 「・・・・どうでもいいけどな」 吐き捨てて、神田は思い出したように、握りしめていたシーツを離す。 掌にはうっすらと汗がにじんでいた。 情けない、思いながら見つめていると、ラビが窺うようにこちらを見ていた。 「何だ」 「・・・や、その・・・・・・・ごめん、さっきは。 余裕なくて、俺・・・・・」 「謝んな。うっとうしい」 「うっとう・・・・」 「それよりいいのかよ。 アレを放っておいて」 分身てことは、元々お前の一部なんだろ。 冷えてきたラビの頭に、神田の言葉が響く。 分身が生まれたことで、何か違和感があるかと言われればそんなことはない。 実験は失敗したのかと思うくらいに、なんの影響も感じられなかった。 一日たてば消えると言っていたし、例えばアレがラビの一部だとして、放っておいても自分の中に勝手に戻ってくるのだろう。たぶん。 よしんば戻って来なくとも構わない。 ラビはなんとなく、アレが自分の一部だと認めたくなかった。 あんな、独りよがりで、傲慢な子供なんて。 「・・・・探しに、行くか」 ぽつりと言われた言葉に、ラビは自分の耳を疑った。 「は!? 何言ってるんさ!?」 「もともとアイツを探しに来たんだろ」 「そりゃま、そうだけど・・・・・・何より、ユウが心配だったっていうか・・・・・・・」 「行くぞ」 まるきり後半部を無視して部屋を出た神田に、しぶしぶラビも従ったのだった。 ・back・ ・next・