「聞いてくれっラビ!!」

「な、何さコムイ?」


フフフフフと怪しい含み笑いをもらしつつ、眼鏡をくいと上げるコムイにラビは一歩たじろいだ。
逆光で見えないレンズの奥が妙に怖い。 関わらない方がいいと、頭のどこかで警鐘が鳴っている。









[ダブル]









ちょうど食堂で出くわしたコムイに、ぜひ見せたいものがあるのだと研究室まで連れて来られて。
ドアをくぐって見れば、何やら布のかかった大きな物体が、部屋の中央に鎮座ましましていた。


「ついに完成したんだよ! 科学班の救世主ッ!! これでみんなの仕事もグっと楽になるよ!」
「まーたコムリンさ・・・?」


過去の失敗例の巻き起こした惨状は、ラビも聞き及ぶ所である。
うんざりと言ったラビに、コムイはちちちと指を振り、


「いーやっ!! 今回はロボットなんかじゃない―――正真正銘、もう一人の僕を生み出す機械なのさッッ!!!」
「はあ?」
「ぱんぱかぱーん、分身製作機、コピリンでーすッ!」


言葉と共にぶわさっと布が外される。
表れたのは電話ボックスのようなカプセルが2つ。 天井部がコの字型のパイプで繋がっている。
カプセルからは色とりどりのコードが延びており、その先にはキーボードがあった。


「この片方に人間が入って、僕がこの機械を操作する」


コムイはキーボードを指差した。


「するとアラ不思議!! 空の方のカプセルに分身が現れるって寸法さ!!」
「へぇ〜・・・・」
「でもまだまだ問題があってね・・・・僕をコピーしたい場合どうするか、とか。 
そもそも、まだ全然テストできてなくてねぇ。 全く、うまくすれば世紀の大発明だっていうのに、みんなして嫌がるんだから・・・・」

大げさにため息をついて顎に手を当てる。 そうして横目でチラリとラビを見た。


嫌な予感がする。


ラビは静かにドアへ近づいた。 が、寸前でコムイに腕を掴まれる。


「は、はははは離すさコムイ!!」
「・・・・協力、してくれるよね?」
「しねぇッ! ぜってー嫌だかんなッ!! あんな妙な機械の実験体なんてッッ!」
「まぁまぁ。 人体に害はないからさー。 効果もせいぜい一日が限度で、自然に消えるし。たぶん」
「嫌さあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


必死で抵抗するが叶わない。 ずるずると引きずられてカプセルの中に放り込まれる。

え。ちょっと待って科学班だろおかしいだろなんだあの馬鹿力ってかなんでこの機械鍵ついてんだよ!ガラス厚ッ!

意味の無い思考ばかりがぐるぐると頭の中を巡る。
コムイが何かのボタンを押した瞬間、ぴりりと電気が走るような感覚を受けて――それだけだった。


「あれ・・・・・?」


呆然としていると、コムイが近づいてきて扉に手をかけた。


「・・・はい、おしまい。 調子はどう?」
「え・・・・・・――いや、特にねぇけど・・・・・成功しなかったんさ?」


鍵を開けてもらってカプセルから出ながら隣のカプセルの方を見やるが、何も変わった様子はない。
コムイはげんなりと肩を落とした。


「かもね・・・・・・・ん?」


どうやら失敗らしいと、ラビが胸を撫で下ろした矢先、ふいに隣のカプセルの中に靄が充満し始めた。
白濁した気体で、中は次第に見えなくなる。
真っ白になったその中で、何か蠢くものが見えた気が、した。 



まさか。



こちらは鍵などのついていないらしいカプセルの扉が、内側から開けられる。
もれて来た気体は、ドライアイスのスモークのようにひやりと冷たかった。


それは、ラビと寸分違わぬ姿形に、格好で。


「・・・・・・こんにちは」


自分の発するものよりは感情がこもらないせいかいくらか硬質だが、全く同じその声に、ラビの背を冷たい汗が伝った。
一方コムイは満足気にうんうんと頷いて。


「よし」
「よしじゃねぇさッ!! どうすんだよコレ!?」
「・・・・・コレ?」


ラビが指差した先で、“ラビ”がきょとんとした――というよりは虚ろな目で、自分を指す。
そんなもう一人の自分をまじまじと見つめて、ラビはぶるりと体を震わせた。


「うわわわ気持ち悪ッ・・・・! コームーイ――!!!」
「やっぱ僕って天才だよねぇ・・・・」
「戻って来いコラ―――!! なんとかしろ―――――!!!」


悲痛な叫び声は、教団中に響き渡った。







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ラビ様が書きたくて知恵を絞ったんですが、どうにも違うものになってしまった気が。
続きます。




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