土方十四郎、2×歳。 今、アツーイ恋してます。 [じゃれて遊んで] 寒くて寂しくてどうしていいかわからなかった僕に逃げ場をくれた人。 しかもそれは一度じゃなくて、行き先も告げずに飛び出した僕をわざわざ探しに来てくれたりもして。 差しのべられた手を取ったとき、僕は気づいたんだ。 憧れとも萌えとも違う。 僕はこの人に恋してるんだって。 始めは確かに戸惑った。 でも男同士だなんて小さな問題だと今は思う。  僕はその、セッ・・・・・か、からだが目的なのではなくて、ヅラ子氏の人柄に惚れたというか、ずっと傍にいたいと思ったと言うかなのだし!! とにかく、心と心の繋がりに性別なんて関係ないと思うのだ。 ああ好きだ。 好きだ好きだヅラ子氏。 この想いはつのるばかりで、僕の胸を甘く締めつける。 願わくばトモエちゃんのコスプレで僕を踏んでほしい、いや違う。ヅラ子氏×僕本でも作ってこの心を打ち明けようか、いやいやいや、ヲタクから離れろ、僕!! ぶんぶんと頭を振って、トッシーは頭をよぎった様々な妄想を振り払う。マウスを操作して、画面をスクロール。 並ぶのはどうでもよい記事ばかりだ。 行きつけのネット茶屋。 しかし覗くサイトはいつもと種類が違う。 トッシーは今、恋愛相談を専門とした掲示板のログを読み漁っていた。 意中の人へのアプローチ方法に絞って検索をかけてみたのだが、なかなか現実的なものに行きあたらない。 どれもこれも自分では勇気がなくてできないような行動や台詞ばかり。 トッシーは肩を落として深々とため息をついた。 「・・・・・・やっぱりあの時、勢いに任せて言ってしまうべきだったでござる・・・・・」 『何をしておるのだ、トッシー』 あの時、振り向いた桂に怪訝な目を向けられて、慌ててトッシーは真っ赤な顔を隠すように桂に向かってぶんぶんと手を振った。 『え、いやあの、違うんでござるよ!今のはその』 『? ・・・まぁいい。 行き止まりだ。 引き返すぞ』 『好きってその変な意味じゃなくてそんけーっていうか感謝っていうか・・・・・アレ?』 桂はとっくに路地の向こうに消えようとしていて、トッシーは危うく彼の姿を見失うところだった。 そんなこんなで絶好の告白の機会を逃してしまったわけで。 桂と暮らし始めてはや数日が経つ。 エリザベスにこき使われたり、桂の部下の志士たちに妙に警戒されたりと辛いこともなくはないが、生活は概ね快適だった。 ひっそりと自分の部屋にこもってトモエちゃんを愛でるしかなかった頃と比べれば格段にいい。 少なくとも、他人に”土方十四郎”を押しつけられずに済む。素の自分でいられる。 ・・・・・何故だか屯所を思い出す度にチクリと胸が痛んだ。もう何の関係もないはずなのに。 僕には新しい暮らしがあって、ヅラ子氏という人がいる。 あの人が傍らにいてくれるなら雑用をこなすのも苦ではないし、ヲタクだってやめられそうな気がする。 いや、やっぱヲタクは無理。 一度踏み込んだら抜け出せぬ、魔の沼でござるからな・・・・・・哀愁を漂わせつつ一人ごちて、トッシーは席を立った。 「真選組に不穏な動き?」 「はい。 ・・・というか、内輪もめのようです」 伊東鴨太郎を推す一派と土方十四郎を推す一派との対立が水面下で激しさを増しています。表面化するのも時間の問題でしょう。 どうも伊東派の方が優勢のようで、土方は近頃屯所に姿を見せず、局長の近藤も伊東の言いなりのようです。 土方か。 獰猛な目をした真選組副長の姿がふと頭に浮かんだ。 その姿に同じ名前をした居候が重なって、桂はふるり、と頭をふる。 「桂さん?」 「いや・・・・・続けてくれ」 「・・・・・・・今や真選組はガタガタです。 今の奴らなら我々の敵ではありません」 脆いものですな。 報告を締めくくる言葉は、何故だかいつまでも頭の中に響いていた。 「・・・・・・報告ご苦労。 見張りを続けろ。 また何か動きがあれば、連絡を」 「承知しました」 真選組の平隊員の装束に身を包んだ彼は、小さく桂に会釈すると、するりと人波に溶け込んで見えなくなった。 攘夷志士である彼は今、伊東の末端の部下として真選組に属し、その内情を探っていた。 有り体に言ってしまえば密偵だ。 以前までは強い絆で結ばれた集団である彼奴らの懐に間者を送り込むのは至難の技だったが、今では相当自由に動き回っても大丈夫らしい。   ・・・・・・なるほど、ガタガタのようだ。  伊東という男、内部のことに拘って外の敵が見えていないのなら、大した奴ではあるまいな。 例えばその男が副長や局長にとって代わったとして、近藤や土方のような脅威にはなりえないだろう。  笠を目深にかぶり直し、桂はふと橋の欄干から下を流れる水面を見遣った。 人の往来の激しいこの橋の上で、托鉢僧を装って道行く人の会話に耳を傾ければ、様々な情報が耳に飛び込んでくる。 その中には土方の醜聞も含まれていた。 『ヅラ子氏』 自分に向けられるひたむきな親愛の情。 笑顔。 狂犬のようなあの男の顔に浮かぶとは、ましてやそれが自分に向けられるとは、とても思えないもの。 それでもわかっていた。 彼こそが、土方十四郎。 彼は一番最初に名乗っている、それを否定しようもない。ただ自分が認めたくなかっただけ。 土方のイメージを壊したくなかった。 宿命の敵として、ある種認め、一目置いている敵方の将。 そんな彼の情けない姿なんて見たくなかった。 それもある、けれど。 自分の中に、トッシーであったら傍に置いておける、そんな気持ちがあったのもまた事実で。 憎からず思っていた。 たとえ行きずりの仲でも。 彼の存在はいつしか自分の傍へするりと入り込んできていた。 エリーが自分の元へと、来てくれた時のように。 ・・・・・・・・返してやるべきだろうか、彼を、真選組に。 無意識のうちに真選組を避けるようにしていたトッシーの様子が頭をよぎる。 彼は逃げている場合ではないのだ。 真選組は今、窮地にあって、・・・・・今動かねば取り返しのつかないことになる。 自分にとって銀時や、高杉や、坂本のような・・・・かけがえのない何か。 おそらく真選組は彼にとってそういった大切な何かだろうのに。 怖いからと掌からそれらが零れ落ちるのから目をそらしていて、そうして、 ・・・・・・そうして何もかも失って、彼はこの先、笑って生きていけるんだろうか。 パシャリと水がはねて、桂は我に返った。 河原の子供達が石投げをして遊んでいるらしかった。 「なぜ俺が真選組の心配なぞせねばならんのだ・・・・・・・」 ふ、と、詰めていた息を吐き出して、桂は身を翻す。 手にした錫杖が、シャラリと涼やかな音を立てた。 夜も更けた頃、桂はようやく潜伏先の宿の門をくぐった。 「ヅラ子氏! お帰りでござる」 「む。 今戻った」 玄関口で桂を待ち構えていたトッシーはやけにそわそわした様子で、若干気圧されながら桂は笠をとる。 何やら胸元で堅く拳を握りしめ、瞳に宿るのは決意の色。 「・・・どうかしたのか、トッシー」 「じ、実は僕っ、ヅラ子氏に大切なお話がッ」 「大切な話・・・・?」 昼間の話が頭をよぎった。 そうか、と桂は重々しくうなずく。 どうやら取り越し苦労だったようだ。 どんなにヘタれたようであってもさすがに土方十四郎、真選組を放ってはおけないのだろう。 てっきり暇乞いの挨拶だと早合点して、桂は自分の中に一抹の寂しさが湧くのを感じた。 「・・・そうか。 寂しくなるな」 「実は、実は僕、ヅラ子氏のことが・・・・」 「なに、気にすることはない。 大事なものがあるのだろうお前には。  構わず好きに出てゆくがいい」 「ヅ・・・・・好きに、出てくって、・・・・え?」 ス、と自分の横を通り過ぎてさっさと奥へ消えてしまった桂に、トッシーは呆然と立ち尽くすしかなかった。 『好きに出てゆくがいい』 桂の言葉が、頭の中で何度もリフレインする。 「どうしよう・・・・・・・・気持ち悪いと思われたんだ・・・・・っ」 絶望に打ちひしがれ、半ベソをかきながらトッシーはヘナヘナとその場にくずおれた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ すれ違い5話目。 トッシーのことが気になってしょうがない桂さんとヅラ子氏ラブなトッシー。 それでもNOT両想い。 真選組動乱編の裏で進行してた話っぽさがようやく出せた感じで嬉しいです。       ・NEXT・    ・BACK・