吹き抜ける風に身をすくめた。 日差しの暖かさで忘れていたが、ふとした瞬間に感じる冬。 気づけばもう吐く息は白い。 刀鍛冶の所への道案内役である銀時と、捜査(?)をしきっている桂が前を歩き、土方とトッシーが後ろに続く。 特に深い意味があるでもない並び順なのだが、なぜか妙に気になる土方だった。 ではトッシーと桂が組んで銀時と自分が歩くかと聞かれれば、それもぞっとしないし、桂と自分が並ぶというのも無理がある。 大の大人が4人一列で並ぶわけにはいかない以上、二・二という数も、そして組み合わせも、どこもおかしくないはずなのに、 二人の背から目が離せない。 特に近づきすぎているでもない。かといってひどく離れて歩くでもない。 二人の距離は絶妙で、寄り添うように歩く後ろ姿に、親密さを見てしまうのは邪推なのだろうか。 「もう一人のボク・・・・」 となりを歩くトッシーの呟きに、はっと我に返る。 一瞬前の自分に戸惑った。親密だからどうした? 戸惑いを誤魔化そうとして、呼びかけへの答えはぶっきらぼうな調子になった。 「・・・その呼び方ヤメロ」 「坂田氏とヅラ子氏はいったいどういった知り合いなんだろうか・・・」 心なしか沈んだ声。 コイツの頭には桂のことしかないのかという呆れ半分、自分のことは棚に上げてという自嘲半分で、土方はその問いを流す。 どの道、俺は答えを持っちゃあいない。 「さァな」 「あんなに仲がよくって・・・家に訪ねてくる仲だなんて、」 トッシーは、そっけない土方の調子など気にしていないようだった。独り言のように言葉を重ねる。 相槌を打つべきなのか迷ったが、なんとなく、言葉を継いだ。 「だったらなんだ」 「土方氏は気にならないんでござるか!? ぼっ・・・ぼくらのヅラ子氏が・・・」 「”ら”ってのはなんだ、奴に気色悪ィ色目つかってんのはテメーだけだろうが」 「気色悪い・・・ヅラ子氏にもそう思われてるんだろうか」 ズゥゥン トッシーの背負う空気が、音を立てて重くなる。 「どーせ僕はヲタクでござるし、三次元となるとヅラ子氏のような漢の扱いどころか、おにゃにょこの扱いすらわからないダメ男でござる・・・ もう死んだらいいんでござるか・・・生まれてきちゃいけなかったんでござるか・・・グスグスっ」 小声でもそもそと呟きながらしょぼくれる、自分と同じ容姿の生物を見て、土方は頭痛を覚えた。 慰めるのも億劫だ、がしかし、このままずっと隣でめそめそされるのも面倒である。 「・・・・トッシーよ」 自分で呼ぶと、想像以上に、寒い。 トッシーが顔を少しだけ上げてこっちを見た。瞳には涙を沢山溜めて。 「考えてもみろ、アイツは男で、お尋ねもんで、顔だけは確かに綺麗かもしれねーが、そんなんじゃ誤魔化しきれねーほどの奇人変人だぞ。 あんなのの――・・・」 トッシーに向けたはずのその言葉は、なぜだろう、自らの心にも波紋を落とす。 「どこがいいんだ? ・・・――」 ――ほんの数秒か、それ以上か。 ともかく土方は自分の意識の中に潜っていたらしい。 気づけばトッシーがこちらをじっと見ていた。 その目にはもう、涙はない。 「土方氏――」 「おーい、トシ&トシ」 「コンビ名か!!」 思わずツッコミ返して前方を見やれば、銀時たちとの距離は、既に50mにもなろうかというほどで。 土方とトッシーは歩調を速めて彼らへ追いつこうと急いだ。どちらも、先ほど何を言いかけたのか、問うたり、続けたりすることはなかった。 「てめーらおせーんだよ。 おら、着いたぞ」 ようやっと追いつくと、銀時がくいと親指を立てて傍らの建物を指した。 すると戸口には、動きやすい服装に加え布を巻いて髪を上げるといったワイルドな髪形ながらも、どこかおどおどとした様子のあるまだ若い女性。 「・・・どうも」 女性――鉄子は気おくれしたように体を縮こまらせながら、一同に向かってぺこりと頭を下げた。 「・・・そんな話は聞いたことがないな」 一通りの経緯を話し終えての、鉄子の答えは短かった。 桂はむぅと難しげに唸り、トッシーは明らかに落胆した様子で肩を落とし、土方は、ひとつ息をもらしただけだった。 銀時は、なんとなくこうなる気はしてたがな、思いながら口を開いた。 「ねーのかよ、ヲタクの怨念で分裂する機能とか」 「ををっ 確かに自在に分裂できればちょー便利でござるな! コミケとかコミケとかコミケとk」 「い、いや・・・ない。ないと思う」 トッシーの勢いに若干引きながら、鉄子。 微妙な留保に、ぴくりと桂が反応して、 「思う、とは?」 「妖刀、村麻紗。斬れ味は折り紙つきだが、母親に殺された引きこもりヲタクの念がこもってて、所有者の魂をくらってヘタれたヲタクにしてしまう。 ここまでは、信憑性はどうあれ刀鍛冶の間じゃ有名な話なんだ。だけど、その先は・・・」 鉄子は考えに耽るように目を伏せた。 「・・・村麻紗の、それも本物らしきものと限定するとなると、まつわる話はあまりにも少ない。 その上、魂を食われきらずに、刀を使い続けるとどうなるかなんて・・・・・・・魂を食らう妖刀、そう伝わってんのが、村麻紗の呪いに打ち勝った奴 なんかいないって何よりの証だろう。そもそもアンタは特殊ケースなんだ、私に言えることは何もないよ」 さっぱりと言い切って、そして申し訳なさそうに、力になれなくてごめん、と付け足した。 「いや、鉄子殿が悪いわけではない。貴重なご意見、感謝する」 「・・・・邪魔したな」 桂が鉄子に謝辞を述べる横で、誰よりも先に席を立った土方が外へ出ていく。それを目で追って、トッシーも腰を上げた。 桂は立ち上がってからまた改めて鉄子に頭を下げ、最後までその場に残っていた銀時を引きずって表へ出た。 一同を追いかけて出てきた鉄子に見送られながら、4人はあてもなく、ともかくと足を動かす。 ・・・さて、行き詰ってしまった。
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