テーブルの端の方に陣取って蕎麦をすするユウの姿を見とめて、俺はそちらへ足早に向かいながら声をかけた。 もうすぐ渡す瞬間がと思うと、どういうわけか顔がにやけてしょうがない。 そんな俺を見て、ユウは怪訝な顔をして箸を置いた。 「ユーウ!」 「なんだ・・・・気持ちわりィな」 「へへ・・・」 笑顔ではぐらかして、紙袋に手を突っ込む。 綺麗にラッピングされたチョコを取り出すと、不気味そうにこっちを見ているユウの眼前に差し出した。 「ハッピーバレンタイン! 俺の気持ちさー! ユウ、受け取って!」 「お前な・・・」 そういうことかよ。 苦笑しながらも、神田はそっと手を出して、ラビの手からチョコを受け取ろうとした。 が。 直前でぴたりとその手が止まる。 どうやら受け取ってくれそうなユウに舞いあがった俺には周りの様子が全く見えていなかったのだが、ユウはばっちり気づいていた。 大胆な告白風景に、トレイを運ぶ手を、あるいは食事の手を止めて皆が注目していた。 新たに食堂に入ってくる者も、なんだなんだと様子を窺っている。 ジェリーをはじめとする調理班の面々でさえ、わくわくと神田の反応を見守っていた。 そんな好奇の視線を四方八方から受けて、彼が素直にチョコを受け取るはずはむろんなかった。 「・・・・・・っ出直してこいッッッ」 「え、ちょ、ユウ――!!?」 席を立ってしまったユウに、俺は涙目になりながら、はたき落とされたチョコを拾ってからそのあとを追う。 一同の注目を一身に集めながら、足音荒く食堂を出て行く神田の顔は、わずかに赤みを帯びていた。