「神田―、いるー?」 「・・・・・・入れ」 入ってきたリナリーは、並んでベットに座った俺たちを見てやばっ、という顔をした。 しかし一瞬後にはその表情を笑顔で綺麗に消して、手にしたバスケットからハートのクッキーを取り出し、俺たちに差し出した。 「ラビもいたんだ、探す手間が省けたわ。 ・・・はいこれ、バレンタインのプレゼント。甘さ控え目にしたから神田でも食べられると思うんだけど」 「ありがとさ!」 「・・・貰っておく」 「楽しいバレンタインを過ごしてね!」 渡すものを渡すと、リナリーはさっさと部屋を出て行ってしまった。きっと俺に気を遣ったんだろう。 楽しいバレンタインを。 リナリーの言葉に後押しされて、今ならユウに渡せそうな気がした。 手持ち無沙汰に手の中のクッキーをいじっているユウに、俺は意を決して声をかけた。 「あのさ、ユウ」 「あ?」 「実は俺からも、バレンタインあるんだけど・・・・」 「・・・どいつもこいつも。 俺は何も用意してねェぞ」 「いいんさ、受け取ってくれるだけで・・・・」 手提げ袋を押しつけるようにして渡した。ユウは受け取って、おもむろに中身を取り出す。 「・・・・・・・」 「味とか、自信ねェんだけど」 「・・・・・・暇人」 「・・・・・・ユウのために、頑張ったんさ」 中から出てきたのは、可愛らしくデフォルメされた神田の顔を模したクッキーだった。 クッキーでできた自分の顔を前に、ユウは何とも言えない顔をして、それをまた紙袋の中にしまい直した。 そのリアクションに焦る俺。 「もしかして・・・気に入らんかったさ?」 「・・・・・・・・・か」 「え?」 「・・・・・よくできてるんじゃねェか」 「・・・・・・・ありがと」 ユウには、こんくらいのことで浮かれてんじゃねーよ、と怒られてしまったが、弛んだこの頬は、自分の意志では直せそうになかった。