結局悩んでも妙案は浮かばなかったので、定番の花ということで落ち着いたのだった。 ユウの部屋には花瓶がないが、まぁそのくらいはどうとでもなるだろう。 花屋でこれを選ぶ時、花なんて女に贈るものだとかなんとか、いかにもユウが言いそうな台詞が頭をよぎった。 受け取ってもらえなさそうな花より、もっと他の物を贈った方がいいんじゃないかと何度も思った。 けれど、そんな考えを一瞬で吹き飛ばしたのが、花屋の片隅に置かれていたこの花だった。 ブルームーン。 淡い青色の薔薇の花。 冬にも薔薇が咲くのかということより何より、その青が、心をとらえて離さなかった。 「ユウ・・・いる?」 部屋に着き、軽くノックするとほどなく扉が開いて、ユウが顔を出した。 眠っていたのか、どこかとろんとした目とかすれた声で、何の用だと静かに問うた。 「今ちょっと、いい?」 「・・・・・・・入れ」 押し開けられた扉の隙間から、俺は体を滑り込ませた。 仁王立ちして腕を組み、こちらを見ているユウに向き直って、俺は心を落ち着かせるように細く長く息を吐いた。 「あのさ・・・・今日バレンタインデーだから、これ・・・」 「・・・・綺麗だな」 意外にもユウはすんなりブーケを受け取ると、そっと鼻先に近づけた。 ブーケに顔を埋めるユウの伏せた目、落ちかかる前髪。 ゆったりとした仕草に体温が上がる。 おかしい。こんなに大人しいなんて、ユウじゃないみたいだ。 顔を真っ赤にして固まった俺に気付いて、ユウはふいと顔を上げた。 「・・・・なんだよ」 「や、その・・・・・ユウちゃん今日はやけに大人しいなーって・・・・・・」 「・・・・ハッ」 小馬鹿にするように鼻で笑うと、ブーケを俺に向かって投げてよこした。 「おらよ。返す」 「え!? いやこれはユウにあげ」 「いらねェ」 「いやいやいや俺の愛は返品不可さ!」 「いらねェもんはいらねェ。リナリーあたりにやれよ。喜ぶぜ」 一方的に言い捨てて、ユウは俺には目もくれず、ベットに潜り込んでしまった。 「俺は寝る。出てけ」 「え・・・・・っと」 「出てけ」 「・・・・・はーい」 行く先を失ったブーケをそっと抱えながら、俺は悲しい気持ちでユウの部屋を後にした。