「フ、相変わらずちょろいですね、ラビ・・・・・」 さっきとは打って変わった真っ黒い微笑を浮かべて、アレンはラビが去った方向に目をやった。 懐へ手を突っ込み、取り出したのは綺麗にラッピングされた小包。 先ほどまでラビの持つ手提げ袋に入っていたものだ。 「大方神田にでもあげるつもりなんでしょうが、甘いですよ・・・そう簡単に甘い時間は過ごさせません」 僕の眼の黒いうちはね、言葉とともに、ぐしゃりと手にした包みを握りつぶす。 リナリーにチョコをもらって云々というのはでっちあげだ。 コムイは愛しい妹からもらった”みんなよりちょっとだけ大きいチョコ”に狂喜乱舞していて、彼女が配った義理チョコになんて目もくれていない。 すべてはラビの計画を阻止するために。 自分がすり替えたあのチョコを神田が口にした瞬間はさぞかし見物だろう。 その場面を楽しく想像しながら、アレンはその場を後にした。 「ハッピーバレンタイーン!!」 部屋に入れてもらうなり、満面の笑みを湛えて手でハート型を作ってみせた俺に、ユウは微妙な表情で応えた。 嫌そうな、はたまた呆れたような、それでいてどこか照れたような顔。 掴みはオッケーさ! と、俺は内心ガッツポーズをきめた。 「俺の愛、しかと受け取るさー・・・」 いそいそと紙袋に手を突っ込み、チョコを取り出して、俺は固まった。 この包みは違う。俺の買って来たものじゃない。 まさかの事態に、おろおろと俺はユウの顔を見た。 ユウは向けられた視線の意図がわからず、たじろいだ様子で俺の次の行動を待つばかり。 どことなく困ったようなその表情を見ている内に、止まっていた思考がようやく活動を再開し始めた。 先ほどの出来事が脳裏をよぎる。 そうだきっと、あの時アレンの持っていたチョコと入れ替わったんだろう―― とすると、きっとこれはリナリーお手製のチョコ。彼女の作ならば、贈り物にしてもなんの問題もない、だろう。 気を取り直して笑顔を作ると、俺はユウに手にした包みを差し出した。 「はい、ユウ! バレンタインのチョコレートさ!」 「・・・・・・もらってやるよ」 言っとくが、俺は何も用意してないからな。 言いながらチョコ受け取り、ユウは、開けた方がいいのか、とこっちを見た。俺は満面の笑みでうなずき返す。 しゅるりとリボンを解き、包み紙をはがすと、中から現れたのは鮮やかな緑色のトリュフ。 「・・・・・・・・抹茶か?」 「・・・・・・・・」 俺はその答えをもっていない。もっていないので、ただ笑顔で、まぁ食べてみてよと促した。 得体の知れない色に少々顔を引きつらせながら、ユウはトリュフをひとつつまんで口に放った。 沈黙。 「・・・・お前な、いくら俺が甘いの嫌いだっつってもこれはねェだろ・・・・」 渋い顔をした神田に、俺は平静を装って、そ、そうさ?と答えた。 (リナリー失敗したんかな・・・・・) ユウは二つ目に手をつけようとしない。 さすがに気になって、実はあんま味見してなかったんさ、食べてみてもいい?とかなんとか言いながら、俺もトリュフを口に入れた。 沈黙。 「・・・・・・・・・・っっ」 「ワサビはチョコと合わねーだろ・・・・・・ラビ?」 「うっ・・・えっ・・・わ、ワサ・・・・ワサビ・・・・・・っ」 「・・・・・おい?」 「水――――!!」 涙目で、俺はユウの部屋を飛び出した。 首を傾げる神田が真相を知るのは、後日言い争う二人を目にした時になる。