「ん。 なんともないさね」 手提げの中を覗き込み、汚れたりなどしていないか確かめて、俺は胸を撫で下ろした。 箱の中身も割れやすい大きなチョコが入っているわけではない。多分大丈夫だろうと判断して、ユウの部屋の扉をノックした。 「ユウ、ちょっといいー?」 「・・・・・開いてる。入れ」 ドアノブを回すとなるほど、あっさり開いて、ベットに横になっていたらしいユウが身を起こすのが見えた。 「なんだ。呼び出しか?」 「違うさ。 ここで問題です、今日は何の日でしょう?」 「・・・・バレンタイン」 「そうバレンタイン! ってアレ・・・・? 一発正解・・・・?」 「リナリーがな。さっき来て置いてった」 「あ、そうなん・・・・」 セロハンに包まれたハート型のクッキーをひらひらと振って見せるユウに、俺はちょっと拍子抜けして肩を落とした。 「で、何の用だ? 言っとくが、俺は何も用意してねェぞ」 「貰おうっつーか・・・貰ってもらおうと思って来たんだけど」 「・・・・・あ?」 「や、だから・・・・ハッピーバレンタイーンみたいな・・・・」 おずおずと差し出したチョコレートを見てユウは動きを止めた。 「・・・・お前が作ったのか」 「安全性を考慮して市販品です・・・」 「俺に食えと?」 「受け取ってくれると嬉しいさ」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・仕方ねェな」 「だよなーいらねェよなーってええええええ」 思わずチョコとユウの顔を見比べた。 「ちょ、ユウおかしくない!? なにその素直さ!! ぜってーおかしいって拾い食いとかしたさ!?」 「してねェよ!! なんなんだ人が貰ってやるってーのにその態度は!!」 「す・・・・っ・・・・・・・すみません」 まだ半信半疑で、そっとチョコをユウの手に乗せる。 それを自分の方へ引き寄せながら、そっぽを向いて舌打ちするユウの仕草にぶわぁっと全身の血が上ってくるのを感じた。 「ユウ―――!!!」 「うわ・・・・・っいきなり何すんだテメェ!」 「かわいいさー・・・・・っ!! もうユウ、大好き! 好きすぎ!」 「離れろ・・・・・クソッ」 腕の中でじたばたもがくユウに、一層愛おしさを感じる俺だった。