「眉間」
「あ?」
「皺寄ってるさ」
「・・・・だからなんだ?」
「あ゛―――!! また皺が深くなったさっ!! んな顔ばっかしてっと取れなくなっちまうだろ!?」
「誰のせいだ・・・」





















[先に触れたのは自分かそれとも]






















久しぶりの教団で過ごす時間は、目の前の騒々しい男のせいで静かさ、穏やかさとは無縁のものになった。
司令室から出てきた所で即捕まり(毎度思うが、なんであいつは俺がどこにいるのかを正確に把握してやがるんだ?)
へらへらとした笑顔にペースを奪われている内に、気づけば二人で俺の部屋にいて。
何が楽しいのか、あいつはただただ飽きもせず俺の顔を見つめたり、ベタベタと絡んできたり。
特に時間を使うあてもなかったけれどこんな風に浪費するためにあるのでは、絶対ない。 そんなのもったいなさすぎる。





「・・・・・いい加減にどっか行けよ。邪魔だ」
「随分お疲れさね、ユウ」
「ああそうだ、だから一人にしてくれ・・・・・」
「そんな時は甘いものに限るさ!!」
「・・・・・・・」




人の話を聞け、などと今言っても多分通じないだろう。 どういうわけか今日のアイツは特別おかしい。
とり合うだけ無駄だ。


無視を決め込もうとした俺の鼻先に、赤い箱が差し出された。



「・・・・・・・なんだ、これは」
「ポッティーさ!! 疲れたユウを労おうと思って事前に用意してたんさ」
「・・・・・で?」
「食べるさ!」
「いらん」
「・・・・・・・仕方ないさねー」




俺に背を向けてごそごそと何かやっている。 
と、くるりと向きなおったアイツは、手に数本のチョコプレッツェルを握っていた。
どうするのかと思えば、さらにそれを自ら口にくわえて、食えと言わんばかりに笑顔で俺に顔を寄せてくる。
ラビの奇行には慣れている俺も、さすがに呆れてものも言えずに固まっていると、咥えていたプレッツエルを一息に食べきって、ラビが不服げな声をあげた。




「せっかく食べさせようとしてあげたのに・・・・」
「頼んでない」
「俺の善意」
「迷惑だ」
「・・・・わかったさ」



今度は菓子を手に持って俺の口元へ運ぼうとする。



「・・・・・・わかってねぇじゃねぇか・・・・・・・・」
「ちゃんとわかってるさ。 ユウが恥ずかしがるから、邪道だけど手で食べさせようとしてあげてるじゃん」
「・・・邪道?」
「えーユウ知らねぇのー。 ポッティーを二人で食べる時は二人で両端から食べてく決まりなんさ。
 どっちかが先に食い切っちゃったりすると、そっちによくないことが起きるんだぜ・・・?」
「はッ・・・・・もちろん知ってるに決まってんだろ」



知らないが、適当に話を合わせておく。



「俺はそういう甘ったるいもんは嫌いなんだよ」
「まぁまぁ、薬だと思って」
「いらん」
「・・・・・そんなこと言って、ポッティーうまく食べられないのが怖いんだろ」
「んな迷信、誰が信じるかよ」
「いいんさ、そうゆうとこもかわいいから」
「・・・・・・・」






俺は無言でラビの手から赤箱をひったくった。

プレッツェルを引き出して咥え、ずいとヤツに突き付ける。
ラビはニヤリと笑って、先端に食いついた。





パキ、ポキ、という軽い音と共に菓子が短くなっていく。
俺はそれを折らないようにするのに必死で、ラビの顔が近付いてきてることにまで意識が回らなかった。

いや、本当は気づいていた。
途中から俺も、そしてアイツも、きっとポッティーなんて二の次だった。
1cmほどの欠片を残して、どちらともなくお互いを求め合った。 絡まる舌の上で、欠片が行ったり来たりした。











最後にすっかりふやけた欠片を俺の方へ押しこんで、唇を離したラビは満足げに息をついた。




「・・・・上手に食べれんじゃん」
「・・・・・・・・・口の中が甘ったりィ・・・・」
「元気の素さ」



顔をしかめる俺に、ますます笑みを深くしてラビは体を寄せてきた。



「さぁ、あとは寝るだけさ。栄養と休息できっと元気になるぜ」
「ひっつくな」
「抱き枕だと思って」
「・・・・・・・・暑い」
「はい、お休み」



ベットに引き倒された体にタオルケットが掛けられ、その上からご丁寧に腕が回される。
お前に世話なんて焼かれなくても適当に飯食って寝るくらいできる。 
そう思うが、不思議とラビにあれこれ言われるのは嫌じゃなかった。

ぽつぽつと語るラビの言葉を呼び水に、ゆったりと眠気が降りてくる。





「あんまむっつりしてちゃ駄目さ。 たまにはアホやって気ィ抜かねぇと」
「・・・・・馬鹿はお前だけで十分だ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・はいはい」




そのまま心地よいまどろみに身を任せていると、ラビが呟くのが聞こえた。
俺がもう寝ているとでも思ったのか、それは独り言のようだった。



「・・・・・・・ポッティーの食べ方なんてあるわけないさ・・・・ぷくくくくく」
















どうしようもない馬鹿男を部屋から蹴りだし、俺はようやく眠りにつくことができた。













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07.先に触れたのは自分かそれとも――ポッキーゲーム



アホですみません。たまにはイチャつかせたかったんです。
ラビはユウちゃんの肩の力を抜かせてあげるのがうまいよ、という話。




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