何かを感じるのに、唇ほど鋭敏な器官は他にないと思う。

















[お好きな場所にどうぞ]


















まずは額に。






次は瞼に。 鼻先に。 頬に。






唇にも軽く触れて、そのまま顎に。 そして首筋に顔を埋める。






顔の付け根の動脈の上にキスを落とすと、どくどくいう鼓動がダイレクトに伝わってきた。










唇を通して伝わってくるユウの感触はどれも滑らかで、心地よくて。 
それがユウの体だってだけで、愛おしくて仕方がなくて。
髪から肌から、体中隅々までキスしたいと思う。もっともっとユウを感じたいと思う。
衝動のままに舌を這わせ、ゆっくりと下へ下へ、降りていく。
肩口のあたりをきつめに吸うと、ユウがびくりと体を震わせた。
目線だけを上げてみれば、睨みつけるユウと目が合った。



「何してやがる」
「キスマークつけたいなって」
「・・・・・言ってたことと違わねぇか?」
「そだっけ?」



しらばっくれてみせると、ユウは明らかに機嫌を損ねたように目を細めた。


キスさせて、といった時の、なんとも言えないユウの顔を思い出す。 
苦手なものを口に入れてしまって吐き出していいものか飲み込むべきか迷っている時のような、そんな顔で口ごもった後、
キスだけだな?と確認してきたあの可愛さといったら、ない。

キスだけだ。 間違っていない。 どこに、と聞かなかったのはユウだし。



ユウは仏頂面で目をそらしたから、俺もまた顔を戻す。
肌蹴させた胸をそっと撫でながら、またひとつキスを落とした。



「・・・・怒ってる割には」
「あ?」
「抵抗しないんさね」
「・・・・・・・・・・」



無言の蹴りを、寸前で防ぐ。 チ、と舌打ちが聞こえた。
つかんで止めた右足をそのままベットに押し付けて、膝で押さえる。
もう片方の足も同じように固定して、そしてベルトに手をかけると、慌てたようにユウが身を起こした。



「――――ッ」
「寝てていいよ?」
「ば・・・・っ・・寝てられっか!!」
「・・・まァ座ってても寝ててもやることは同じさ」
「お前な・・・・」



顔を真っ赤にさせて、思いきり俺を押しやりながら、ユウは深々とため息をついた。
俺は笑いながら手を離し、ふとユウの肩に目を止める。 
先ほど残したはずの赤色は、もうそこにはない。



「ユウ」
「寄るな!!」
「ごめんごめん、もう驚かすようなことはしないさ。 な?」
「な、じゃねェ馬鹿!! ・・・・・・・・・・ったく・・・人の体舐めまわしやがって・・・」
「キスさキスー。 舐めたのはちょこっと」
「どっちでもいい」



俺はベットの端に腰かけて、頬杖をついて。 すっかりご機嫌斜めなユウがシャツのボタンを留め直していくのを横目に見る。



「ねぇユウ」
「・・・・・・・」
「キスマークー。 キスマークつけさせてよ」
「嫌だ」
「なんで?」
「・・・・ッ・・・・不毛だろ・・・」



耳元で囁くように問うと、ユウの声が震えた。 殴られないのをいいことに背に腕を回して体を寄せる。
ユウは初めこそ体を強張らせたが、次第にそれも抜けていった。



「・・・・・絶対つかねぇのに、やってどうする」
「挑戦することに意義があると思わん?」
「思わない」
「そっかー・・・じゃあユウが俺につけてみる?」
「・・・・・・・・・何でそうなる・・・・」
「いや、俺ならちゃんと残るさ? お好きなところにどうぞ、なんて」
「つけたいのはお前で、俺じゃねぇ」
「うん。 でもまぁどっちかについてればいいと思うんさ」
「・・・・大丈夫か、頭」



ユウのことだから真剣に心配してるんだろうな、と思うと笑いがこみ上げてきた。
クスクスと笑いながら腕にこめる力を強めた俺に、ユウは居心地が悪そうに体をもぞもぞさせた。
こっちを不気味そうに見ている。
流石に笑いを押しとどめて、別に頭のネジがゆるんでるとか、そういう訳じゃないことをアピールしてから、おもむろに切り出した。







「唇ほど鋭敏な器官って、他にないと思うんさ」
「・・・・そうなのか」
「あぁ、専門的に調べたわけじゃねぇんだけど、実感ていうかさ。 たとえばー・・」





まずはぎゅっと抱きしめて、頬を寄せる。





「肌同士とか」





次にユウの右手を取って、指を絡める。





「指先とか、触れあえばそれなりに感じられるけど」





最後に指を解いて、それでユウの唇をすっとなぞった。





「ここが、さ。 一番じゃねぇ?」







驚いた顔で固まって、何度か瞬きをし――ほのかに頬を染めて目を伏せた。



「・・・・そうかもな」
「だろ? だからさ、もっと活用すべきだと思うんさ。 ユウも」
「それとこれとは話が別だ」
「えー」
「えーじゃねぇ!! いい加減離れろ!! 朝っぱらからべたべたべたべた・・・・」
「ユウがキスマークつけてくれたら」
「・・・・・死ね」



言いながらきっとやってくれるんだろうなぁ。
そんなことを思いながら、幸せな気持ちの溢れるまま頬を緩めた。











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お好きな場所にどうぞ――――キスマーク




ラビはキス魔だと思います。



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