俺が君を愛したから、君は俺を愛した。 俺がトクベツ、だからじゃなくて。 [ノットビコーズ] 吊り上がった双眸を長い睫毛が縁どる。 黒曜石にも似た黒瞳は見つめる俺の視線を捉えているのかいないのか、どこまでも深くて窺い知れない。 整った鼻梁。 磁器のような頬。 熟れた果実のような唇。 誰が見たって文句なしに美しい容貌も、俺にとっては、それがユウだというだけでその何万倍も価値があった。 キスをする。 抱きしめる。 ユウは何も言わない。 言わないけど拒絶もされない。 受け入れてくれているのだと、何度も自分に言い訳してきた。でも。 俺はユウが好きだから抱きしめるし、キスしたいと思うけど。 一緒にいたくて、一緒に泣いて笑ったこの月日は、とてもとてもかけがえのないものだけど。 俺が望むから、ユウは抱きしめてくれただけで。 俺があまりに寂しげに見つめるから、ユウはキスしてくれただけで。 一緒にいたかったのはやっぱり俺で。 ユウは・・・・・・・・・・ わかってた。最初から。 ユウにとって俺は大勢の中の一人でしかない。 だってユウと俺は同じだから。 トクベツ、なんて、死んでも作りたくないはずだから。 そんな俺は間抜けにも恋をして、もうユウしか見えなくて。 ユウは俺よりもずっと優しいから、そんな俺に付き合ってくれた。 どうして俺たちはこんな関係になったんだろう。 こんな関係を続けていたんだろう。 お互い、苦しいだけなのに。 最後の最後に、そう決めたはずなのに、目の前のユウは相変わらず綺麗で、すごく、綺麗で、 泣きたいような笑いたいような気持ちになった。 ・・・・・・・・・・・・・・・俺には君を振り向かせる方法なんて考えつかないんだ。 「ごめんね、ユウ。 今までありがとう。 ・・・・・・・・・さよなら」 ――終わりにしよう。 嬉しいのも悲しいのも、快さも苦しさも。 どんな気持ちも君がくれた。全部君のせいだ。 ただ夢中で、どうしようもなくて、もうたくさんなんだ。 別れを告げたところで、辛いのは俺だけだろうけれど。 ユウは一人でも寂しくないし。 ユウは俺なんか望んじゃいない。 まさに立ち去ろうとした俺はそのまま動きをとめた。 マフラーを強く引かれて、前へ進めなかったのだ。 ただでさえこみ上げるものをこらえて痛む喉が、圧迫されて鈍い痛みを訴える。 振り返れば、ユウがしっかりとその端を掴んでいた。 彼自身咄嗟の行動だったようで、俺の視線に気づくとはっとしたように手を放し、まじまじと自分の手を見つめていた。 それから、何か言いたげに唇がわずかに動く。 結局言葉にはならずに、沈黙。 「なに? ごめん、俺急ぐんだけど・・・・・」 冷たい声音に自分でも驚く。 けれど、今は取り繕って振る舞えるだけの力もない。 言うことは言った。 早く立ち去ってしまいたい。 ユウの顔なんてまともに見ていられなかった。 ユウは吐きだす吐息に乗せて、呟くように漏らした。 「・・・・・・・・・・そうか。 いや、・・・俺もすまなかった」 「別に。 迷惑かけてたのは俺さ」 「・・・・・おしまい、か」 「清々するだろ」 「そう、だな」 ユウはどこか乾いた笑いを浮かべた。 俺の胸はチクリと痛んだ。 いつかはこの胸の痛みも消えるんだろうか。 「お前と一緒にいるのは・・・・・嫌いじゃなかった」 またチクリ、鈍い痛みが走る。 「・・・・・・・・どうしてそんなこというんさ」 「え」 チク 「その気もないのに、優しい言葉なんかかけるなよ・・・・・・・・」 チク 「俺が欲しいのはそんなやさしさじゃない! 俺が欲しいのは――」 チクリ ほろほろと、涙が頬を伝った。 馬鹿みたいだ。 こんなに、こんなに好きなのに。 離れるなんてできないのに。 わからない。ユウの心も。 俺の、心も。 もどかしくてもどかしくて、どうしようもない想いが胸を掻いた。 「ごめん、ごめんね、ユウ・・・・・・・」 泣くしかできない俺を、いつものようにユウはそっと抱きしめてくれる。 こんなに近くにいるのに、どうしていつまでも心は遠いままで。 いつまでも、通じ合えないままでいるんだろう。 君にとって俺は必要じゃないかもしれないけど、だけど、 俺にとって君は不可欠で、 だから君にとっても俺がひつようじゃなきゃいけない、なんて、 トクベツじゃなきゃいけない、なんてそんなの、無茶な話で。 本当に無茶な、話で。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 寒くなると切ない話が書きたくなります。 独りよがりなのはわかってて、でもどうしようもなくって、うーんみたいな(何) タイトル・イメージは同名の曲より。みんなRAD聞こうよ素敵だよ! お粗末様でした。
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