――抱きしめるだけでは足りない。 [喰らい尽くしてしまいたい] それこそ目が合った瞬間から気になってしょうがなかった。教団で、最初にユウを紹介されたとき。 ユウはこっちを見ようともしなかった。俺も敢えて見ようなんて思わなかった。引き合わされた同い年だという少年。 コムイが横で何か言うのを話半分に聞き流していた。 じゃあ二人とも、仲良くね、なんて台詞とともに肩を叩かれたから、いつものように愛想よくして、手を差し出して。 でも相手がかわりに差し出してきたのは右手じゃなくて舌打ちだった。俺は思わずユウの顔を見た。なんだコイツ、そう思って。 ユウはただ無表情に、俺を眺めるばかりだった。 そんな出会い方をした人間に恋をするなんて、おかしいのかもしれない。おかしいのかもしれないけれど、俺はいつからかユウに 夢中になっていた。最初はそう、話をしたい。声が聞きたい。そんなささやかな願いを胸に。教団でユウを見かけるたび声をかけた。 寄っていった。邪険にされても諦めずに。 次第にユウは、声ぐらいならかけてくれるようになった。話しかければ、答えが返ってくるようになった。 話ができるようになれば、今度は二人きりになりたい、と、思った。みんなとじゃなくて、俺とふたりで話をしてくれないだろうか。 その願いはあっさり叶った。ユウは一人でいることが多かったから、そこを狙えば二人になれる。 みんなの中で話すよりずっと緊張したけれど。ユウにはもの好きなやつだな、俺と話して楽しいか?なんて聞かれたけれど。 願いが叶って俺は幸せだった。俺たちは二人きりで、来る日も来る日も他愛無い話をした。喋っているのはほとんど俺だったけれど、 そんなの少しも気にならなかった。 笑顔が見たい。次に願ったことは、ユウの心からの笑顔。ユウは大体眉間に皴を寄せている。目付きも悪い。俺の話で笑わせて あげられないだろうか。俺の力で。ある日それは叶った。リナリーとふざけてて、俺がドジやって、なんて、全然俺の力といえる ようなものじゃなかったけど。 俺達がぽかんとするくらい大爆笑したユウは、ひとしきり笑った後照れ隠しのようにぷりぷり怒ってまた眉間に皺を寄せていた。 でもそれ以来、ユウの俺に向ける表情は少しばかり柔らかくなったような気がした。 願いはつきなかった。後から後から生まれてきた。 俺はずっとユウを見てた。ユウのことばかり考えてた。 そうして、自分の中の気持ちに気づいた。 好き。俺はこの人が好き。 だから、 触れたい。 抱きしめたい。 キスしたい。 俺の気持ちに応えて。 俺の目を見て。俺だけを見て。 俺だけに語って。 どこへも行かないで。 抱きしめて。 キスして。 愛して。 スキ。 大好き。 触れていたい。 離れたくない。 いくつもの願い。満たされるたびに消えて、また生まれて。 こんな穏やかな今でさえも。 「何ぼーっとしてんだ」 「・・・・ん、なんでもない」 「巻きつくな。離れろ」 「・・・・・・・・・やだ」 「殺す」 「アハハ怖いさユウ――っていでででいたいいたい、ごめ、ユウさんごめんなさい」 「チッ」 ユウのベットの上。 持主のユウはベットの縁に腰かけていて、対する俺はベットの上にごろりと転がり、後ろからユウの腰に抱きついている。 そのせいでユウに思いきり耳たぶを引っ張られたのだが、俺はこの体勢を変える気はない。ユウも諦めたようで、これ以上 何かしてくる気配もない。 俺はユウを抱く手に一層力をこめて、その背中に顔を押し付けた。 ユウの匂い。 じわり、と暖かなものが体を満たす。自分はこんなにも満たされているのに、どこか納得しない。満足できない。 気持ちがとまらない。 「ユウ、キスしていい?」 「聞くな」 「・・・・それって、聞かなくてもわかるだろってことさ?」 「よくわかってんじゃねぇか。んなもん、駄目に決まって―― オイ馬鹿ウサギ」 「なんさ?」 「重い。どけ」 俺が体を起して背にのしかかると、ユウはあからさまに嫌そうな顔をした。構わず、俺はユウの肩に顔をのせる。 「・・・・顔が近い」 「今更さ」 「なんなんだよお前は。さっきからべたべたべたべた・・・うざってぇ」 「嫌さ?」 「離れろって言ってんだろ」 「嫌とは言わないんさね」 「・・・・・・・」 口ごもるユウに、思わず頬が緩んだ。手を伸ばして、後ろからぎゅうと抱きしめる。細い体。狂おしいほどに愛しい。 欲しくて欲しくてたまらない。欲求は膨らみすぎて、もはや何が欲しいのかも、どうやったら満たされるのかも、わからない。 ただわかっているのは、ユウが好きで、好きで好きでどうしようもないこと。 ひとつが満たされればまたいくつもの願いが生まれた。 ひとつを満たす度に一歩、一歩。深みにはまっていく自覚はあった。 それでも足を止められなかった。 ユウは俺の望みをいくつも叶えて、 俺はユウにいろんなものをもらって、 そうして戻れなくなった。 抱きしめるだけでは足りない。 君が全部欲しい。 骨ごと丸ごと、あァ、 ――喰らい尽くしてしまいたい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ お題配布元:群青三メートル手前/鶯崎晴さま 今年もラビュフェスに投稿させて頂きました。もっとエロくなる予定だったんですが・・・撃沈。 エロくなりたい。違った、エロスをだせるようになりたい、です。
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