ろくろく期待はしていなかったけれど、案の定の誕生日当日。お互い任務の途中で旅の空。 ユウの誕生日は二人で祝えた、でもそれはきっとコムイの優しさと、何より俺がユウを祝いたい気持ちでいっぱいだったから。 「生まれてきてくれてありがとう、大切なひと、いとしいひと」。 心から思って、たくさん企画考えたし、何をあげようか悩みに悩んだし・・・ でも今回誕生日の主役は俺。 正直、離れ離れでなくてホームで顔をつきあわせていたんだとしても、おめでとうの言葉をもらえたか微妙だと思っている。 うん、わかってる。 それでも無線のひとつだってよこしてくれないユウに、落胆ともなんともつかない暗い気分を抱えて寝袋に潜り込んだ、10日。 あれからもう二週間ほどたつけれど、何の音沙汰もない。というか、ユウの姿すら見ていない。 入れ違いに次ぐ入れ違いというヤツらしく、任務を終えて戻ってくるたび、ユウの行方を尋ねては凹んで、の、繰り返し。 無線のひとつも入れれば声ぐらいは聴けるのだろうけれど、なんとなくきっかけが掴めなくて、ユウからも通信なんてなくて、 そうして、一週間すぎて、さらに日が経って。もう誕生日のことなんて、リナリーの作ってくれたケーキやアレンのおめでとう ございますラビ、なんて言葉とともに頭の奥の方にしまいこんでしまって久しい。 今はただ、ユウに会いたい。寂しい。恋しい。 会いたい。 「ユウ〜・・・・」 「・・・・食事の時ぐらい神田のこと横に置いとけないんですか」 うっとうしいです、と隣に座ったアレンが口からパスタをはみ出させながら顔をしかめた。 俺は自分の注文したハンバーグランチを申し訳程度につつきつつ、 「仕方ねぇんさ・・・」 「だから、その湿っぽいのやめて下さい。陰気臭いのがうつります」 「・・・アレンの冷血漢ー。ひとでなし」 「人聞きの悪い。ちゃんと慰めてあげたじゃないですか」 「最初だけな」 「さすがに付き合いきれませんから。 話を聞いてあげるだけでも感謝して欲しいくらいです」 そびえたつ皿の塔の上にまた新たな一枚を重ねて、アレンはナフキンで口元を拭った。 最初――10日直後はわりとまともに応対してくれていたのだが、ここ最近はもうこんな感じだ。 明らかに話を聞く態度じゃないけれど、実際話すだけでも気は紛れて助かっているのでそうそう文句も言いづらい。 はぁ、とため息をついた俺に一瞥をくれて、アレン。 「僕じゃなくて、神田と喋ればいいでしょう。 何のための通信ゴーレムですか」 「うーん、それはそうなんだけどよ・・・」 「まだ誕生日祝ってもらえなかったの、根に持ってるんですか」 その様子で意地を張ってもしょうがないでしょうに、とアレンは肩をすくめてみせた。 言葉にするなら、「やれやれ、まったく」。 俺はフォークをおいて皿をのけ、テーブルに頬杖をついた。 「そういうわけじゃないんさ。 ただ・・・なんかこう、きっかけが、」 「空気読む努力なんて無駄ですからやめたらどうですか」 「今日はやけに毒舌ですねぇアレンさん」 「すみません、正直者なもので」 「さよーで・・・・・・・あーもう」 とうとう重力に身を任せて、ぺたりとテーブルにつっぷした。 頬に当たるひんやりとした感触までが物悲しい。 「いい加減限界なんさぁぁぁぁ」 「僕もですよ」 「アレンは冷てーし・・・・うっうっう・・・」 「同じうざいでもいつものテンションの方がまだいいです。  ――だから、さっさと充電してきたらどうですか」 「んなこといったって・・・・」 「ラビ!」 聞こえないはずの声がした。 「へ?」 思わず身を起こした。 その横っつらに何かがクリーンヒットして、俺は再びテーブルに沈む。 (今、首がゴキって鳴ったさ・・・) それでも素早く復活して食堂の入口の方に目を凝らせば、おそらく任務帰りなのだろう、団服に土埃をまとわりつかせて、 しかし変わらぬユウの姿。 「え、コレ・・・」 思わずユウの顔とさっき投げつけられたものとを見比べた。 いかにもプレゼント然した小さな包み。 窺うように視線を向ければ、遠く遠く、テーブルを挟んだずっと先にいるユウの口が動いた。 察しろ。 「・・・・・え」 きゅううん。 鼓動が急に早まったのを感じた。思わず胸を手で押さえる。苦しい。息が詰まるほどの速度。激しさ。 ユウが立ち去るのを見届けてなお、俺は雷に打たれたようにその場に立ち尽くしていた。 「・・・・やっぱりウザい・・・・・・・・」 隣でアレンが何か言っているが気にならない。 瞬きも、息をするのさえ忘れて。 頭の中が真っ白だ。 「・・・・・・・ユウ」 赤くなっているだろう顔をおさえてうつむいた。 何度でも君は、俺の心を奪っていく。 傍から見れば「限りなくアホらしく」、俺は何度だって恋に落ちる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 短めにひとつ。夏の間にどうしようもない話を絶対書きたいと思っていたので(そんな理由で) ラビたん誕生日おめでとう! 遅すぎるのはわかってます! そしてラビュなのに登場ほぼラビたんだけですみません       ・BACK・