しとしとと降る雨の音ばかりが満たす室内。 万事屋の応接間で、桂はジャンプを読みふけっている男を見つめた。 卓の上、ふたつ置かれた湯呑から湯気が立ち上っている。それとて新八が出かけ際に淹れていったもので、 桂が来た30分ほど前からずっと、この男は動くどころか、手の中の雑誌から目を離そうとすらしない。 「・・・銀時」 「・・・・・・・・」 「銀時ー」 「・・・・わりぃ」 「そう思っているならそれをそこへ置いてこっちへなおれ」 「いや・・・なんつーか、お前をいざ目にしたら、どうしていいかわからなくてよ・・・」 「銀時・・・・」 「ハッピーバースデー、小太郎・・・・」 「そうして二人は幸せになりましたとさ(桂裏声)」 「っだァァァァ!! 勝手にアテレコした挙句気持ち悪ぃオチつけてんじゃねェェェェ!!!」 「ぐふぅっ」 ジャンプを顔めがけて投げつけられ、のけぞる桂。 しかし一拍後には、何事もなかったかのように顔面にめりこんだジャンプを抜き取って、 「お前が無視をきめこむから俺が代わりに代弁してやったんだろう。 心の声を」 「それはてめーの妄想だ!!」 「ふっ・・・・以心伝心に頼ってだんまりとは・・・・相手が俺だからいいようなものの。 しかし銀時、あまり絆を過信しすぎてはいかんぞ! 常にお互いがお互いを思いやってこそよりよい関係が築けるというもの」 「聞いてねーし!! お前もう帰れ!! 頼むから星へ帰ってくれ!」 「俺の帰る場所はいつだってここだ。 というか、お前が呼び出したんだろう」 言って、ずずっとお茶をすする幼馴染を、銀時はうらめしげに睨みつけた。 手を伸ばして、床に落ちたジャンプを拾って、かといって読み直すには苦しい空気だ。 ――"ここ"が指すのは地球かそれとも。 妙な台詞をさらっと吐きやがって。本当にタチが悪い。 ため息をついて銀時は腰を上げた。 「む。なんだ」 「だまって待ってろ」 冷蔵庫の戸を開けて、取り出したものを卓へ置く。 「・・・・・プッチリプリンではないか」 「文句あんのか。テメーなんざこいつで十分だ」 「まぁ、期待はしていなかったがな」 プリンのひとつでも出てきただけマシだ。言いながら桂はいそいそとプリンの封を切る。 「文句あんなら食うな。返せ貴重な糖分」 「文句ではない。今流行りのツンデレというやつだ。 ああ銀時」 「なんだよ」 「皿を貸せ」 「皿ァ?」 怪訝な顔をする銀時に、桂は鼻息も荒く力説する。 「そうだ皿だ!! 皿がなくてはぷっちんできないではないか!!」 「・・・・や、いーんじゃね? そのまま食えば・・・・」 「そんなこと容器のぷっちん部分を作っている業者さん達に申し訳なくてできるかぁぁぁぁ!!!」 「心配いらねーよ、どうせ機械だ。 イッツオートマチックだから、今時」 「貴様ァ!! ぷっちんを愚弄するか!? ぷっちんの神に祟られるぞ!!」 「ふざけんなぁぁぁぁ!! ぷっちんの神なんていてたまるか!!」 「ぷっちんを笑うものはぷっちんに泣くのだ!! この先一生うまくぷっちんできなくなってもしらんぞ!?」 「知るかァァァァァ!!!!」 「あと体の大事な部分をぷっちんに変えられてしまうんだぞ!? どうだ恐ろしかろう!!」 「いや、意味わかんねーけど。むしろ引くけど。 お前に」 「あっ今ヒワイな妄想しただろう顔赤くなったー。 ほらそこ! 耳んとこ! クラスの連中にバラされたくなかったら大人しく皿を渡せ」 「・・・・・ああうん、なんか、俺が悪かった・・・・・」 苛立ちより何より言い知れぬ疲労感に負けた。テンションを使い果たした体を引きずって銀時は皿を取りに行く。 皿を渡して、ひどく慎重な手つきでぷっちんを試みる桂を見ながら、体を深くソファに沈みこませた。 「銀時見ろ!! 綺麗にぷっちんできたぞ!」 「あーそれはよござんしたねー」 「食べるぞ?」 「ご勝手に」 ようやく静かになった。思いながら銀時は目を閉じる。 桂を呼び出して、無駄に体力を使って。俺は何がしたかったのか。 (そういえば、言ってねーな) 誕生日の呼び出し、そしてプリン。桂のことだから気付いているとは思うけれど。 ・・・・第一、今更どんな顔して言えばいいというのか。 誕生日おめでとう、なんて。 「・・・・・けっ」 「む。 どうした銀時。 一口ならプリン分けてやってもいいぞ」 「いらねーよ。 ・・・・オイ」 「なんだ」 「・・・なんか、老けたな」 「失礼な奴だな。 人を目の前にしてそれか」 「寿命残り少ないんじゃねーの」 「おお。めでたく今日一年減った所だ。だが心配はいらん。まだまだ生きるからな、俺は」 「まだまだ、ね・・・・・」 ふいと目をそらした。桂がため息をつく気配がした。 「・・・・・まったく、素直じゃないな、お前は」 「・・・・・・・・・・」 「素直でもそれはそれで気味が悪いが・・・・・まぁいい。 馳走になった」 「・・・・さっさと帰れ。星になって消えちまえ」 「さっきも言ったが俺の帰る所はひとつだ、銀時」 思わず桂の顔を見た。不敵な笑みを浮かべて、銀時の視線を真っ向から受け止める。 「ではそろそろ失礼する。 誕生日プレゼント、ありがたく受け取った」 「プレゼントじゃねーよ。茶菓子だ」 「あまりぷっちんを侮ってはいかんぞ」 「そのネタはもう勘弁して下さい・・・・」 「また来る」 がらがらぴしゃんと玄関の戸の閉じる音がした。 銀時はソファに体を預けて、長々と息を吐いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ハッピーバースデーつーゆー!! 桂さんお誕生日おめでとうございます!!
・BACK・