「おでかけですかィ? 土方さん」 後ろからかけられた声に、土方は玄関端に腰を下ろしたまま動きを止めた。 同時に、極力静かにと気を配って、ようやくここまで辿り着いた苦労が水の泡になったのを知る。 ゆっくりと振り返れば、肩越しに、気持ちいいくらい晴れやかな笑みを浮かべた沖田が見えた。 [行かねばならぬ時がある。] 誰もが寝静まった深夜1時。 二人は静かに睨みあう。 「土方さん、こんな時間におでかけですかィ?」 「まァな」 「何のご用で?」 「それは・・・・・・」 土方は言葉に詰まった。 桂に会うために――そんな理由は口が裂けても言えない。 それは唐突だった。  夜中、一人ひっそりと録画したトモエちゃんを観賞していて、急に桂に会いたくなったのだ。 思えば自分と桂は敵同士。 お互いのねぐらに足を運ぶなんてもっての他だし、通信手段もない。 唯一の慰めは手配書をトモエちゃんポスターコレクションの中にそっと忍ばせておくくらい。 街で偶然に会う時も、なかなかお互い仲間が一緒にいるから話すこともできないし、話せたとして二言三言。 そんな日々が数か月も続いて・・・そろそろ自分の中のトッシーが音を上げ始めているのを、土方はひしひしと感じていた。 隊服のジャケットの下は、トッシーのいつもの服装に着替えてある。 首尾よく屯所を抜け出し、桂の潜伏先(多分アキバ?)を訪ね、朝方何食わぬ顔で戻ってくるつもりだった。 のだが。 (一番やっかいなヤツに見つかっちまった・・・・) 土方は頭を抱えたい気分だった。 それでもなんとか、言い訳を捻りだそうと頭をフル回転させる。 「いや・・・アレだ」 「アレ?」 「マヨネーズがきれたんだ」 「アララ。そりゃ一大事だ」 「マヨがなくちゃ夜食のラーメンが台無しだ。 という訳で、俺はもう行――」 「チャラララッチャッチャーン。 そんなこともあろうかと俺がこの前の特売で大量に買いこんどきやした。  土方さんのツケで」 「・・・・・・・・・」 どこからともなく数本のマヨネーズ(業務用)を取り出した沖田に、思わず土方は言葉を失う。 「・・・・・・どんだけェェェェェェ!?」 「気の利く部下を持って幸せですねィ土方さん」 これで寒い中外出する理由もなくなったわけだ。 朗らかに言う沖田に多少呑まれつつも、土方は次なる言い訳を練り上げる。 「いや・・・実は他にも入り用の物があってな」 「へェ? 口元が引き攣ってますぜ土方さん」 「ジャンプが読みたくて、朝まで待ちきれなくてよ・・・・・・・・  先週のTo LOVEるは相当いいとこで終わったからね、作者も心憎いことをするでござる。  じゃあ僕はこれで」 「今日水曜日ですけど」 「・・・早売りを買いに行くんだよ」 「嘘はいけませんぜ土方さん」 「なんでお前ジャンプ発売日なんて知ってんだよォォォ!!」 「そりゃあ俺も立派な少年ですから、このくらいは当然でさァ」 ニヤリと笑んだ沖田を、土方は心の底から殴り飛ばしたいと思った。 しかしそれでは何の解決にもならない。 なんとか奴をごまかしてさっさと寝かせ、自分は桂と×××(自主規制) 頭の中でトッシーが萌えーと叫ぶのを聞いた気がした。 「・・・・穴場中の穴場があるんだよ。日本一早くジャンプが読める店が」 「ニヤニヤしながら喋るのやめて下せェ気色悪いんで。  万事屋のダンナが早売りしてた店があらかたつぶれてなくなっちまったって言ってやしたが」 「・・・・穴場だから誰も知らねぇんだ。 万事屋もまだまだだな」 「凄ェや土方さん。すっかり身も心もヲタクになっちまって。  でも今週号合併号でしたぜ。 一週休みになるんじゃねェんですかィ」 「・・・・・・・・・・」 土方は言葉に詰まる。 沖田は勝ち誇った笑みを浮かべた。その目が如実に語っている。 (んな言い訳が通じるわきゃねェだろォォォォォ死ね土方) 土方はごくりと唾を飲み込んだ。 まずい。 このままでは部屋に戻らなければならなくなる。上手い言い訳も浮かんでこない。 万事休すかと思われたその時、二人の間の緊張をはらんだ沈黙を、場違いな陽気な声が打ち破った。 「そうごぉ〜。何やってるんだぁそんな所で〜」 「近藤さ・・・・酒くさっ」 「おっトシもいるじゃないか! どうしたんだ〜?二人して」 へべれけの近藤は沖田に纏わりつきながら、きょろきょろと二人の顔を交互に見遣る。 そういえば、今夜は小規模ながら宴が催されていたのだった。 土方も沖田も早々に退出していたのだったが、まだ続いていたらしい。 しめた、と思うや否や、土方はさっさと立ちあがった。 「あっ土方さ・・・・」 「どこ行くんだ〜? トシ?」 「・・・・・酒の買い足し頼まれてたのを忘れてた」 「おお、そうかそうか!! いやーもうどの瓶もすっからかんでな! 頼まれてくれるか!」 「ああ」 「よくもそんな嘘を・・・・・」 いまいましげに言う沖田も、近藤には逆らえずに奥へ引っ張られて行く。 「飲み直しといくか〜! そうご、お前も来い!」 「ちょ、近藤さん、そんな場合じゃ・・・・」 「じゃあ行ってくるわ」 「おお! 気をつけてな〜」 ピシャリと後ろ手に玄関の戸を閉め、土方はほくそ笑みながら夜の街へ足を踏み出す。 思わぬ助けに感謝しつつ、ついでに嘘をついたことをそっと詫びる。 あの様子では、自分がいつまでたっても帰ってこなかろうと、気づくことはないだろうけど。 早々に気持ちを切り替え、妄想に夢膨らませながら、息も白くけぶる夜道を一人、足を進めるのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ や・・・ 山なしオチなし意味なしィィィ! これぞヤヲイですみません。 桂ネタって土方には凄い弱みだろうから、ここぞとばかりに沖田君ははりきっていじめるんだろうなと 思っただけなんです。 ・BACK・